依然改善されない特別養護老人ホーム・ルミエールの虐待について、2006年5月17日に札幌市に再度提出した『第二次申入書』を公開します。(一部ウェブ用に改編していますが、内容に変更なし)
実際に提出した申入書はすべて実名ですが、この記事では、一部を除き匿名にしました。
申入書
札幌市長 上田文雄様
一昨年(2004年)8月27日、当組合は貴職に対し白石区の特別養護老人 ホームルミエール(社会福祉法人公和会)における高齢者虐待の事実を内部告発しました。
同年12月20日、貴職はルミエールに対し「虐待によって生じる可能性のある結果が 認められた」として老人福祉法第19条第1項に基づく改善命令を出しました。
ところがルミエールに於いては、当組合の告発後も虐待行為が散発したり、虐待常習が疑われる者を介護現場の指導者に配置したり、介護職の8割以上をパートや派遣労働者に置き換えるなど、改善命令が履行されているとは言い難い状況が続いています。
つきましては下記にルミエールの実態を報告しますので、厳正に対処されるよう 申し入れます。
第1 ルミエールが改善命令・指導を履行していない事実
1.虐待はなくなったか?
(1)虐待の事実
① Xケアワーカーによる虐待行為
2004年10月6日14時から16時30分の間、Xケアワーカーは施設1階の 中間浴の脱衣所にて、奇声を発した入所者・Aさん(94歳・女性 本年5月11日逝去) に対し、痣(あざ)が残らないように青いタオルを当て、Aさんの肩をぎゅっと掴む虐待を行った。
この様子は、派遣スタッフのJケアワーカーが目撃した旨、Tケアワーカーに話している。
なお、この虐待は札幌市が「ルミエールに於いて虐待が強く疑われる」との中間報告 (2004年10月1日)を公表した直後に発生している。
② Zケアワーカーによる虐待行為
2005年1月13日13時30分頃、Zケアワーカーは入所者のBさん(75歳・男性) のオムツ交換の際、同人に抵抗され蹴られそうになったことに立腹し、痛がる足ツボを押した。
このことはZ本人が「(暴れたので)Bさんの足ツボやってやった」と話しているところをTおよびSの両ケアワーカーが直に聞いている。
③ Vケアワーカーによる虐待行為
- ア)2005年7月5日Bさんを叩いた疑い。
- イ) 〃 年〃月29日水分補給を拒否したCさん(87歳・女性)のおでこを叩く (Yケアワーカーが目撃)。
- ウ) 〃 年8月6日20時頃、投薬介助を拒否したDさん(95歳・女性)の頭を叩く (Tケアワーカーが目撃)。
(2)虐待発生に対する施設管理者の対応
① Xケアワーカーによる虐待は、前項①の事例だけではない。
札幌市が改善命令の際に 公表した「特別養護老人ホームルミエールの調査結果について」と題する資料の別紙1~2 に記載されている「乱暴な行為(車椅子を押し放すなど)」や「いじめ行為(寒い時期に窓を 開け、着替えを急かすなど)」は、いずれもXケアワーカーによる行為である。
また、ルミエールにおける虐待の有無が争点となっている民事裁判のなかで、Sケアワーカー はXによる虐待行為を目撃した旨を証言している(札幌地裁 平成16年(ワ)第2100号 損害賠償請求事件 原告 葛西清(元ルミエール入所者の家族)/被告 社会福祉法人公和会)。
以上の経緯から、施設側はXケアワーカーには以前から虐待常習の疑いがあることを充分承知しているにも拘わらず、未だにそのことを真剣に調査せず放置している。
それどころか、 施設は本年1月21日付でルミエール3階介護現場の指導者として同人を副主任に昇格させた。 (ルミエール3階は、一昨年、当組合が内部告発した5件の虐待が発生した現場である)
② 前項②のZケアワーカーのケースでは、2005年2月頃、当組合がルミエールに対し 「未だ虐待を行っている者がいる」と指摘。
組合からの指摘を受け、城田仁事務局長らが調査に乗り出す。
ところが本人が当初、Bさんへ仕返しをした主旨を自ら認めていたにも拘わらず、施設側はこれを暴れる利用者から身を守るための正当防衛と強引に解釈し「虐待ではない」と結論付けた。
したがって、虐待どころか不適切事例ともされなかったため、虐待行為者へのケジメも、利用者への謝罪も無く、職員に経過を公表することもなかった。当然、再発防止策も講じられていない。
なお、事件当時の介護現場の責任者であるH主任(2005.7月退職)は、当組合の関係者に対し 「あれは明らかに虐待」と述べている。
③ 城田事務局長は、前項③のVケアワーカーによる虐待行為を把握した以降も、同人を 口頭注意しただけで夜勤就労を続けさせた。
この件については、またしても本人が否定しているか らという理由で、「虐待ではない」と結論付けられた。鈴木則子施設長は「本人が 『親しみを込めて、たしなめるように軽く叩いた』と弁明している」ので、虐待ではないと判断した旨述べている(2006.4.19鈴木施設長の発言)。
(3)介護記録の改ざん
前項②で述べたZケアワーカーによる「足ツボ虐待(05年1月13日)」から半月以上経た2005年2月7日、施設側はZケアワーカーに「足ツボ虐待」を「正当防衛」として記録しておくよう介護記 録の改ざんを指示した。
具体的には、Bさんの介護記録(個人用ファイル)の1月13日の部分に、 「(介護拒否するBさんの)足を押さえると抵抗が無くなりました」と記載した。
また、3階の『申し送りノート⑨H17.1.25~』の2月7日のところには「B氏が(介助に)抵抗した 時は、足を押さえるとスムースに介護できます。試して見てください!(Zの署名)」などと記載されていたが、施設側は後にその部分を修正液で消した。
(4)虐待問題への不誠実な姿勢は改善命令に反する
市は改善命令(2004年札高施第2030号)のなかで「入所者の身体の状況について、通常 生じ得ない痕跡等があった場合には、その原因を究明し、その結果を、入所者本人及びその家族 に対し、適切に理解しやすく説明を行うとともに、再発を防止するための措置を講じること (命令文)」をルミエールに命じた。
しかし、ルミエールは虐待の再発防止や、利用者家族への説明はおろか、虐待の有無そのものを真剣に調査しようともしないのである。
ルミエールにおいては、虐待の実行行為者が「やってい ない」と否定しさえすれば、「虐待なし」と結論付けられるのが現状である。これは、虐待行為 についての問題意識や責任感が極めて乏しいルミエール管理者の姿勢が、改善命令後もまったく 変わっていないことを示している。
したがって、札幌市による改善命令はことごとく無視・軽視 されていると言わざるを得ない。
2.職員指導体制の充実は図られたか?
(1)虐待常習者や虐待隠ぺいの人物が指導者に
第1項(1)の①で述べたように、市の調査でも虐待行為者として名前が挙がっていたXケア ワーカーが「経験豊富な指導者」として、介護現場の指導者(3F副主任)に任命された。
更に一連の虐待疑惑の中で、職員らへの事情聴取などを行い虐待の事実を最も詳しく知る立場にありながら、虐待隠ぺいに奔走した鈴木則子副施設長が、昨年(2005年)12月に施設長に昇格 した。
また、城田仁事務局長は一連の虐待疑惑の最中 (2004年10月)に就任した人物であるが、 その後発生した虐待問題の際、鈴木則子施設長とともに虐待隠ぺいに動いた。
(2)介護現場の指導者は全て派遣かパート
本年3月30日時点までは、ルミエール入所部門の介護現場の指導者5名は、次の表に示す通 り全て派遣またはパートだった。このように介護現場の指導者層の全てを、派遣やパートなどに担わせるケースは全国的にも稀有と思われる。なお、ルミエールは本年5月、当組合の再三の指摘で主任・副主任5名のうちW副主任(短時間パート)を除く4名を正職員化した。
職 階 | 氏 名 | 資 格 | 雇 用 形 態 |
3F副主任 | X | な し | パート(常勤) |
3F副主任 | ●●●● | 準看・ヘルパー2級 | 派遣労働者 |
2F主任 | ●●●● | 介護福祉士 | 派遣労働者 |
2F副主任 | ●●●● | ヘルパー2級 | 派遣労働者 |
2F副主任 | ●●●● | 介護福祉士 | パート(月16日勤務) |
(3)「職員指導体制の充実」の実態は改善命令に反する
市の改善命令はルミエールに対し「経験豊富な指導的職員を配置するなど、 職員指導体制の充実を図る」ことを命じた。
しかし、先に述べた指導者の極めて不適切な人選や雇用不安定化の実態は、札幌市の改善命令が全く履行されていな いと言わざるを得ない。
3.外部研修は行われたか?
(1)介護職への外部研修はほとんど実施せず
改善命令以降の1年4ヶ月の間で、介護現場の職員が外部研修に出席したケースは殆どない。
なお、施設側は職員がプライベートの時間を利用して自主参加した研修会を「外部研修参加者」としてカウントし、市に「改善した」旨報告している。
外部研修とは業務として参加するものを指すのであり、この報告は虚偽 ないし不適切である。ルミエールが介護職らを業務として外部研修に出さないのは、単に人件費の支出を抑えるためと思われる。
(2)改善命令に反する
市は改善命令のなかで、職員に対する研修について「施設外研修の受講回数、 人数とも不足しており」と指摘し、「職員の研修について、介護技術及び資質の 向上のため、具体的かつ体系的な職員研修計画を策定、実施し」と命じている。
これを受け、ルミエールは市に提出した措置結果報告書で、施設外研修を「年間計画 に基づき計画的に行う」としているが、実態は前項で述べた通りであり、改善命令は履行されていない。
4.職員の定着率は改善したか?
(1)正職員の激減と派遣労働者の異常な増加
ルミエール介護職における、雇用形態の変化は次の通りである。
– | 正職員 | パート | 派 遣 | 介護スタッフ計 |
2004年12月(改善命令時) | 24名(49%) | 8名(16%) | 17名(35%) | 49名 |
2006年3月 | 7名(14%) | 11名(22%) | 33名(65%) | 51名 |
増 減 | -17名 | +3名 | +16名 | +2名 |
※2006年3月30日時点
介護労働者の労働条件の低さは、「いやになったら、いつでも辞める」 「条件の良いところが見つかれば即、転職する」という定着率の悪さを生み、 そのことは介護技術の向上や伝承を妨げ、更には素人集団による虐待と紙一重の乱暴な 介護が横行することとなる。
しかし、そのようなことをなんら気にせず、利益追求だけの視点からみれば、定着率の悪さは常に大多数の労働者が初任給ベースで入れ替わるため、 大幅な利益を生む「効果」を持つ(ルミエールの介護職員51名中、年収300万円を越える者 は僅か数名である)。
更に派遣の多用は、その状況に一層拍車をかける。
そのことは、施設内で虐待を見ても 「(派遣先ルミエールの意向に反してまで)本当のことを言わない、言えない」という 「効果」もあわせ持つ。
このような、不安定雇用の多用(介護職の87%)がルミエール 虐待の背景にあることは、今更言うまでもない。
特養の介護現場にこれほど大量の派遣労働者 (介護職員の65%)を入れているケースは、全国的にも例がないと思われる。
ルミエールの城田仁事務局長は「(派遣は)安いので使っている」と当組合に説明している(2006年4月4日 城田発言)。
あまりにも「正直」と言うほか無い。
(2)派遣法違反の事実
ルミエールにおける派遣労働の実態は、労働者派遣法40条の2で定める期間制限 (原則1年)を越えているケースが多数存在する。
1年の期間制限は労働者代表の意見 聴取手続きを経た後、最長3年までの延長が可能とされる制度だが、ルミエールに おいて労働者代表が選出された事実はない。
当組合はこの間、何度もルミエールに 派遣法違反の事実を指摘してきたが、施設側はこれを無視し続けてきた。
(3)派遣の激増は市の改善指導に反する
市は改善指導(2004年札高施第2031号)のなかで、「採用、退職の管理を含む職 員処遇全般について見直しを行い、職員の定着性の改善を図り、より適切な職員体制とすること」と指示している。
更に、札幌市の板橋監査指導室長は2004年12月20 日に開催されたルミエール虐待問題に関する市議会厚生委員会で「派遣職員は、ど うしても短い期間で交代する。利用者に充分な処遇をできないのではないかと危惧している。(ルミエールに)正職員を増やすよう指導して行きたい」旨述べている。
しかし前項までに示したとおり、ルミエールの介護職員に占めるパート・派遣の割合は、2004年12月の改善命令時点の51%から86%(2006年3月末現在)に激増、 反対に正職員は49%から14%に激減し、市の指導内容とは正反対の実態を招いている。
また、入所部門の介護職の平均勤続年数は、およそ2年6ヶ月前後であり、 これは改善命令時点とほとんど変わらない。
このように、札幌市の改善指導は全く履行されていないどころか、むしろ悪化したと 言わざるを得ない状況にある。
5.第三者評価は実施されたか?
市の改善指導は「施設運営に関する第三者評価を実施すること」をルミエールに指示している。しかし、この指導から1年4ヶ月の間、第三者評価は一度も実施されていない。
6.その他
(1)1千万円を越える業者からの便宜供与疑惑
ルミエールでは2000年4月の開設以来、本年3月末日まで給食業者S社により、 まる6年もの間、夜勤者への夕食・朝食(計10食分)が無償で提供されてきた 事実がある(6年間で、のべ21,900食)。
少なく見積もっても1千万円を越える便宜供与である。これを城田仁事務局長は、業者の好意だと説明している。 利用者の食費に被っていた疑いがあり、調査すべきである。
(2)不透明な業者選定
ルミエールでは本年4月1日から給食業者が変更となったが、この変更は鈴木則子施設長や城田仁事務局長は、一切関わっておらず、業者選定の場面で入札が行われたのか否か、そのことが理事会で協議されたのか否かも、一切不明である。
これを決定したのは長沼倭文子理事(前施設長・長沼理事長の妻)であり、変更の理由 は理事長の経営する札幌ロイヤル病院の給食業者に合わせたとのことである (2006.4/19組合の質問に対する鈴木施設長の説明)。
これは経営者による、公私混同の疑いがある。
(3)就業規則の不利益変更を画策
一般的に札幌市内の特養では年一回、3,000円~5,000円程度の定期昇給 が就業規則に基づき実施されている。
ルミエールにおいても従来は毎年3,000 円程度上がる就業規則(賃金規定)となっているが、鈴木施設長は単に「経営が苦しい」との理由で、定昇を一律1,000円に圧縮する賃金表を導入しようとしている。
なお、ルミエール介護職の多くは、正職員も含め夜勤手当を入れても年収 200万円~250万円程度であり、札幌市の特養のなかでも最低の賃金実態と思われる。
職員の賃金を更に低く抑えようとするこれらの動きは、市がルミエールに対し「職員処遇全般についての見直しを行い、職員の定着性の改善を図る(改善指導の第4項)」ことを求めた改善指導に反する。
(4)予想される裁判判決を今から否定
2004年10月に、ルミエールが当組合や報道機関など6者を訴えた裁判は、虐待の有無を 巡って現在係争中である。
ところが施設側は裁判所の虐待・事実認定がもはや避けられないと見て、今から「その場合は間違った判決だ」と予告している (2006.4/13城田事務局長の発言)。
社会福祉法人が自ら起こした裁判の結果を 「負けた場合は認めない」という態度は、反社会的と言うほかない。
(5)家族会、未だに結成されず
ルミエールが「改善」に向け作成した工程表には、家族会の設置が予定されているが、 未だに家族会は結成されていない。
また、施設長は2004年9月の家族への説明会で、「(虐待問題に関して)市の調査結果が出たら説明会を改めて開催する」旨約束したが、施設側は未だに利用者家族への説明責任を果たしていない。
第2 行政の毅然とした対応を求める
1.行政の曖昧な判断は、虐待の継続を許す
ルミエールは、当組合が一昨年8月に内部告発した虐待事例や、内部告発以降の虐待事例について、全て「虐待は無かった」と結論付けている。
その理由は、「(虐待容疑 の)当事者が否定した」からである。
ルミエールのような行政処分(改善命令)を受けた法人が、未だに虐待行為に対する問題意識が希薄なまま、平然と事業継続できるのは何故なのだろうか。
貴職による改善命令後も、虐待や記録改ざんなど不適切な運営が続くのは何故なのだろうか。それは、貴職が虐待の有無についての判断を避けたこ とが、大きく影響している。
ルミエールは、貴職が虐待の判断を避けた調査結果を「当施設の調査結果と共通認識 に立つ(2004年12月20日 ルミエールの公式コメント)」と捉え、「虐待は一切無かった」 と開き直る根拠とする。
したがって、ルミエールにおいては貴職による改善命令以降も、 過去の虐待行為や、貴職が調査公表した50件にのぼる不適切行為について、なんら真剣に検証されることも無く、虐待の実行行為者やそれを放置・隠ぺいした施設幹部らへのケジメもつけさせないまま、現在に至っているのである。
過去の虐待事件と真剣に向き合えないルミエールが、未だに真の虐待防止策を講じ得ないのはむしろ当然である。
ちなみに、本年4月1日から施行された高齢者虐待防止法は、施設職員に高齢者虐待の通報義務を課している。
この場合の通報先は「市町村」である。
多くの場合、虐待加 害者は「やっていない」と否定するであろうから、この制度は行政が虐待の有無を毅 然と判断しなければ成り立たない。
法律の施行前とはいえ、ルミエール虐待事件において、虐待有無の立証責任を負わされているのは、私たち民間人である。
2.命令不履行の実態と司法判断を踏まえた行政行為を求める
札幌市手稲区のグループホーム「いちわ」における虐待事件のケースでは、行政(道庁) が虐待があったと判断し、その結果認可が取り消された(経営者はルミエールと同様に 一切の虐待を否定している)。
一方のルミエールにおける虐待事件のケースでは、行政 (札幌市)が虐待の判断を避けたことで認可取り消し処分を免れ、経営的にはなんら不利益を受けることもなく、現在も虐待事件発生時と全く同じ経営者による、通常通りの運 営が許されている。
それに加え、改善命令や指導についても、これまで述べたとおりなんら誠実に履行していない。
今後、遅くとも年内には、ルミエールにおける高齢者虐待の有無について司法判断が下る。
その場合は、ここに報告した改善命令・指導をルミエールが誠実に履行していない実態を踏まえ、貴職が厳正に対処することを求める。
なお、その際に入所者や利用者家族が困らないよう、貴職がその点を最大限考慮することをお願いする。
以 上