非正規労働者の新たな問題である“無期転換逃れ”

2013年労働契約法改正により、有期契約労働者でも通算5年以上働いた場合に無期転換権が行使できるようになりました。いわゆる“5年ルール”です。将来が見通せず、些細な理由でクビを切られる非正規労働者の雇用の安定を図るために作られました。
この法律の審議段階でまず心配されたのが「会社が有期雇用の無期転換を恐れて5年になる直前に契約を切るのではないか」ということ。これについては、政府も懸念を示しており、2017年には当時の安倍晋三首相も「ルールを避ける目的で雇い止めをすることは、法の趣旨に照らして望ましいものではない」と答弁しています。
しかし、法の制定から5年目を迎える2018年以降、“無期転換逃れ”としか言えないような、5年直前の雇い止めが頻発しており、日本通運、放送大学や博報堂など、名だたる企業・法人を相手に裁判が行われています。
社会環境活動で有名なパタゴニア社

アウトドアウェアブランドとして世界的に有名なパタゴニア。
商品の品質はもちろん、会社の社会的活動でブランドを確立しました。
会社が儲かっていない時でも売上の1%を自然環境保護の活動団体に寄付していたり、大量消費社会に警鐘を鳴らして「ジャケットを買わないで」という挑発的な広告を出すなど環境活動に力を入れており、2019年には国連で最高の環境賞である「地球大賞」を受賞しました。
日本でも、長崎県の石木ダム建設に企業として反対声明を出したり、2021年衆院選では地球環境のために投票に行くよう呼びかけるなど、社会的な姿勢は変わりません。
パタゴニアでも“無期転換逃れ”が
そんなパタゴニアが、直営店の有期雇用のパートタイムスタッフに対して“無期転換逃れ”を行っていました。なんとも用意周到に採用当初(更新1回目)の雇用契約書から、有期雇用契約期間は「通算して原則として最大5年未満を限度とします」と記しているのです。採用する労働者に「あなたは無期転換権を行使できる日までは働けません」と言っているということ。無期転換権の事実上のはく奪です。
疑問を覚えた札幌北ストアのパートタイムスタッフが札幌地域労組に加入し、パタゴニアへ団体交渉を申し入れました。
社員を入れ替えてフレッシュに!?
2月14日(月)に行われた第一回団体交渉で、会社側は“最大5年未満”条項について、労働契約法改正に対応するために作ったもので、「原則として無期転換権が発生しない」ことを示すためのものだとアッサリ暴露。
「パタゴニアで働きたい人が多く、新しい人もどんどん採用してフレッシュにしていきたいと思っており、そのための空きを増やしたい」とのこと。要は労働者の入れ替えのために無期転換権を行使させない調整をしているということです。
詳しく聞いていると、業務態度や会社への貢献度および上司の推薦など基準を満たせば5年以上働くこともできるとのことですが、基準は曖昧で恣意的な運用も可能です。現に、今年だけで2人が勤続5年を目前に雇い止めを通告されています。
それ以前に、5年を超えるに際しそれまでと別の基準が生まれるということ自体が、労働契約法改正の意図に反したものです。
ゴミは捨てないが、労働者は使い捨てにするパタゴニア
パタゴニアは、自社製品を含めて物を大切に長く使うように呼びかけ、大きな修繕部門があったり、製品を自宅で修理する方法を動画で公開しています。直営店にはレジ袋が無く、マイバッグを持参しない客には、他社のものを再利用した紙袋や、店舗に返却を求める布バッグを渡すなど、ゴミ削減へ徹底的に努力しています。
そのような会社で、「労働者は入れ替えてフレッシュに」したいと言ってのけるグロテスクさ。ゴミは捨てないけど、労働者は使い捨てにするということでしょうか?服は長く大切に使うけど、労働者は簡単に取り替えるということでしょうか?
パタゴニアは企業の社会的責任を果たして
これまでのパタゴニアの社会環境活動を、札幌地域労組は全面的に支持します。
ついては、自社の労働者の雇用の不安定さにも目を向け、“無期転換逃れ”条項を廃止してください!
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