この記事は、北海学園大学・川村雅則ゼミナール発行『学校で労働法 ・ 労働組合を学ぶ札幌地域労組に聞いてみよう労働組合ってどうすごいんですか?2018』の内容を一部転載し、全3回に渡りご紹介する企画の第3回目です。

今回は、道内屈指の医療・福祉グループで起きたパワハラの事例です。ここのグループの理事長は、政府系会議の民間議員も務めている大物です。

第1回はこちら icon-external-link 

第2回はこちら icon-external-link 

川村雅則教授のウェブサイトはこちら icon-external-link 

転載元『学校で労働法 ・ 労働組合を学ぶ札幌地域労組に聞いてみよう労働組合ってどうすごいんですか?2018』のダウンロードはこちら icon-external-link 

 

上司にも承認されていた有給休暇申請が取り消される?―医療・福祉職場で働く女性組合員からの相談

この相談者には過去にも労使紛争の経験があり、3年前に彼女は解雇をされたのですが、裁判で争って勝って職場復帰したという経験がありました。

彼女からの今回の相談内容は、9月に旅行に行く予定があったので、旅行で休むと4月の段階で有給休暇を申請し、上司たちも承認していました。

 

突然の有給休暇申請の却下

ところが、副理事長であるセンター長から、旅行に行く日も近づいてきてから、恒例の企画行事があるから休んではならないと突然、有給休暇の取得が却下されたのです。

もし、全員出勤してくださいなどの通達があらかじめあれば、彼女も旅行の計画は取りやめていたでしょう。

それが、4月の段階で有給休暇の取得は認められている。

さらに言えば、この企画行事のことを知っている彼女の上司でさえ承認しているにも関わらず、取得を認めない、とセンター長は告げてきた。

 

みんなが行事に参加しているのにあなただけ休むなんてとんでもない、常識がない、などと自分の部屋に呼びつけて彼女を怒鳴ったのです。

 

そこで彼女はどうしたものやらと組合に相談をしてきて、組合としては、その日に休ませてもらいたいという団体交渉の要求をしました。

 

事実関係を正確に把握して要求をする

こうした事案では、事実の正確な把握が大事です。

誰が、いつ、どこで、何と言ったのか、どう対応したのか。こうしたことについての正確な把握がなければ、言った、言わないの不毛な言い合いになりかねませんのでね。

 

要求文書の中では、これらを明記した上で、センター長が団交に出席するよう求めました。問題を起こした張本人であるわけですから。

当然センター長は、これは面倒なことになった、団交になんかは出たくない、と思うわけです。

そこで彼女をすぐに呼び出して、今回だけは特別に認めると告げて、めでたく彼女は旅行に行けることになりました。

 

申 入 書 

組合員の労働条件にかかわる下記の事項について、速やかに団体交渉を開催することを申し入れます。なお、本件団体交渉につきましては、◆◆副理事長の出席を求めます。

団体交渉の開催日時につきましては、当組合の副委員長・鈴木(電話・・・―・・・―・・・・)と予め調整のうえ決定願います。

1.事実経過

(1)旅行計画を予め届け出ていた事実

本年4月2日、■■は直属の上司である●●課長に対し、本年8月31日(金)から9月7日(金)までの間(この間に休日の土日を挟む)に有給休暇を取得したい旨を明記した休暇簿を提出した。その際、■■は休暇簿に「ツアー旅行参加のため」と記したメモを添付した。この休暇簿は4月中旬、◆◆センター長(副理事長)および●●課長の承認印が押され■■の手元にメモと一緒に返された。6月に事務所の中で、上司から企画行事の実行委員募集が呼びかけられ、■■にも打診された。その際、■■は「私は旅行でいません」と述べたことに対し、●●課長は「ああ、そうだね。■■さんいないよね」と述べ、他の上司からも問題視する発言はなかった。

(2)土曜休日の申請が承認されなかった事実

7月下旬、■■は月2回の土曜日の休日を労働者側が指定する方式になっている休暇簿に9月1日(土)と8日(土)を指定し事前承認を求めた。これに対し、◆◆センター長は8月6日午後1時頃、■■をセンター室へ呼び出し「9月1日に休むとはどういうことか」と詰問したうえで、土曜日の休日申請を認めず出勤するように命じた。法人は9月1日(土)について、予め職員全体に対し出勤するよう指示した事実はない。

2.要求事項

(1)土曜休日を認めること

◆◆センター長が■■の土曜休日の申請を認めないことは、人事権乱用であり不当である。ついては、9月1日の土曜休日の申請を認めること。

(2)有給休暇を認めること

9月1日についての土曜休日が認められない場合に備えて、■■は同日について有給休暇の申請を行う予定である。ついては、この有給休暇申請を速やかに認めること。有給休暇取得に対する不利益な取り扱いは違法であり、そのようなことを行わないこと。

以 上

 

団交に至らずとも問題解決

ここでのポイントは、ガンガンと団交で攻めるのももちろんありですが、もめ事は回避したいと思っている団交相手に対して、有給休暇を認めれば団交は避けられると思わせて、そちらに誘導したことです。

我々も、目的を達成できるならばあえて労力を使う必要はないわけです。

一晩ほど文章の作成に時間を割きましたが、結果的に、たったの紙2枚で、一度は否定された有給休暇の取得を認めさせて、彼女は旅行に行くことができました。

 

労働組合にはできることが数多くある

この事例でもわかるように、どんな些細な問題でも労働組合にとりあえず相談してみれば、解決できることはたくさんあるのです。

これが弁護士を立てるとなると、やはり20 ~ 30万円はかかって、仮に交渉で勝ったとしても、高くついてしまいます。

 

彼女の場合も、最初の解雇の裁判の後、嫌がらせを再びされるのではないかと考えた、当時の弁護士に勧められて私たちの組合に加入したのです。

いわばセイフティネットの役割ですね。今回のような嫌がらせが今後もあるかもしれませんが、弱気にならずに本人さえ腹をくくっていれば、私たちが守ることができます。

さらに、こういう成果を上げることで、組合に私も入ります、という人が出てくるという効果もあるのです。

 

パワハラはケースバイケース

3つのケースを話してきました。ところでパワハラの線引きについては、実は、一言でいうのは難しく、ケースバイケースというしかないと思います。

判断は非常に難しいです。私たちも、パワハラの相談を受けるときにはじっくりと話を聞きます。電話で5、6分の話を聞いて判断する、というわけにはいきませんので、その職場の人間関係や、相談者の職場における位置とか相談者の性格なども聞きます。

 

判断が難しいのは、シカトをされたとかのケースです。こういう相談は結構あるんです。

組合を作った後などに、おはようございますと職場で挨拶をしても、社長が返事をしない、圧力をかけてきていると。

労働組合に対して圧力をかけてきているわけですから、厳密に言えば、これは不当労働行為あるいはパワハラに該当する、とは思いますが、ただ、そのことで社長を追求してもそんな回答はしません。

挨拶をされたのを知らなかったとか聞こえなかったとか、言いますから。人間関係の場合は判断が難しいんですよね。シカトをしたら全てがパワハラであるというわけでもないと思います。

 

叱責、イコール、パワハラではない

こういうのもありました。結論から言うと、パワハラではないと判断したケースです。

ある大手のレンタルショップにアルバイトで採用された人が釣銭を間違えて店長から怒られた。そのことを、けしからんといって名古屋の本部に、うちの店長にこんなパワハラをされたと電話をしたんです。

そうしたら、彼の雇用契約期間は3か月ないし6か月だったのですが、次の契約は更新されなかった。

そういう相談です。私がこの相談に対して言ったのは、いやな先輩とかいやな店長なんてどこにでもいるんですよ。

自分が気に入らない世の中の全てがパワハラになるわけじゃないでしょう、と。

 

線引きが難しいけど、やはり、一定ラインを超える、例えばその人の人格を攻撃したとか、こういうのは完全にアウトですよ。

だけれども、店長に厳しく怒られたくらいの場合はパワハラに該当するのかどうか。ケースバイケースで、パワハラは判断がなかなか難しいんです。

 

まずは早めの相談を

とはいえ皆さんに伝えたいのは、将来働いて困ったときには、1人で悩まないで必ず誰かに相談をすること。

我々のような、1人でも加盟できるユニオンは札幌には3つ4つくらいありますから、ぜひ相談して欲しいし、もし皆さんの周りで困っている人たちを見つけたら、こういうところに行ってごらんと助けてあげてください。

 

最後に一言。大学生である皆さんには、好奇心をもって、何にでも興味を持って欲しい。雑学で結構です。新聞を読むこともその一つです。

人生は一生涯、勉強だと思います。

失敗も経験してください。私自身もそうですが、振り返ると恥ずかしいような失敗をたくさんしました。

でも失敗は自分を成長させてくれます。

私自身は、皆さんたちのような若いころはあまり勉強しなかったのですが、大人になってから毎日、勉強しています。

皆さんにも、私たちの生きるこの社会のことに関心をもって勉強を続けて欲しいと思います。

第3回はここまでです。いかがでしたか?解雇や賃金未払い以外の場面でも、労働組合にできることは多くあります。

ひとりで悩まずに、まずはご相談ください。