この記事は、北海学園大学・川村雅則ゼミナール発行『学校で労働法 ・ 労働組合を学ぶ札幌地域労組に聞いてみよう労働組合ってどうすごいんですか?2019』の内容を一部転載・改変し、ご紹介する企画の第4回目です。

組合職員の鈴木が大学の授業の中で、労働組合の説明をしたものです。札幌の大きな病院で組合結成をした実例を元に、労働組合の仕組みや機能について紹介します。

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川村雅則教授のウェブサイトはこちら icon-external-link 

転載元『学校で労働法 ・ 労働組合を学ぶ札幌地域労組に聞いてみよう労働組合ってどうすごいんですか?2019』のダウンロードはこちら icon-external-link 

 

北海道大野記念病院で労働組合を結成


最初に断っておきますが、ここの病院が特別に悪い職場だとかそういうことでは全くありません。

むしろ、ここは良心的な職場だといってもよいぐらいです。

その証拠に一例をあげると、「ゆとり休暇」(表1参照)という、法律で義務づけられた以上の休暇がここの職場では設けられています。

ただ、そういう職場でも、困ったなぁ、どうしようかなぁという事態は発生します。

そういうのをどう解決するか、このときの経験に基づきながら話を進めていきましょう。

 

大野記念病院の看護師の採用条件・労働条件

これは、大野記念病院の看護師さんの採用条件・労働条件です。病院のホームページに掲載されていました。

看護師は専門職ですから、皆さんが大学を出てサラリーマンとして就職するよりは給料が高いです。

特に今は看護師不足ですから賃金は少し高めです。表の「想定年収モデル」でも、結構な金額ですよね。

もちろんこれは、最大限盛っている。
つまり、夜勤などもフルにすることを前提に計算しているのだと思いますが、それでもこの位の賃金は保障されると書かれている。

 

退職金引き下げの提案が労組結成の契機

ことの発端は退職金の引き下げの提案が使用者側から行われたことにありました。

その前にまず、退職金制度について確認をしておきましょう。

まず第一に、退職金の支払いは法律で義務付けられているわけではありませんので、制度がなくてもそのことで違法にはなりません。

第二に、退職金制度で確認しておくべきは、支給される金額が退職の理由で大きく異なるケースが多いことです。
端的に言えば、自己都合で辞める場合と、会社都合で辞めなければならない場合とでは、大きな差があります。

さて、この病院で起きたのはこういうことです。

時期的には2018年 11 月ぐらいに、経営者側が職員を集めて、退職金規定を変更したいという説明会を開きました。

今までの退職金規定では、自己都合で辞めようが―つまり、結婚退職で辞めようが、別の病院への移動を希望して辞めようが、退職金は満額支給されていました。

一般的には先ほど言ったように、自己都合退職の場合には減額されるところが多いです。

ここで重要なのは、そういう差をつけること自体は違法ではないのです。
最初からそういうルールで決まっていたら問題ではないのです。

だからこそ、退職金が出るか出ないかだけではなく、どういう条件が設定されているかまでを確認しておく必要があるのです。

 

労働条件の不利益変更は使用者が自由に行えるわけではない

大野記念病院の退職金規程、つまり、自己都合退職でも金額が減らされないという条件は、働く側にとっては有り難いものですが、経営者にしてみれば、なんとか見直しをしたい、よそと同じにしたい、と思ったのでしょうか。

それで、今後は、自己都合の場合は退職金を減額します、具体的には、約6割にまで減額する、という提案をしてきた。

今まで 100 万円が支給されていたのが 60 万円に減額されるということです。
勤続年数が長くなればなるほど退職金は増えていきますので―例えば、仮想モデルで、20 年で 500 万円の支給というケースで考えると、300 万円への減額になるわけですから、働く側にとっては大きな痛手です。

こういうのを、労働条件の不利益変更と言います。

大野記念病院がまだ良心的であったのは、職員を集めてちゃんと説明会をした点です。ちゃんと説明をした上で変更しなければならない、という意識は持っていたわけですね。

ひどい会社では、労働者への説明など一切せずに一方的に変更をしてきますから。

そういうケースを私は相談でたくさん見てきました。
みんなが知らないうちにルールが変わっている、こういう話は結構あるのです。

その点でここの病院は、対応はそれなりのことをした。

遅番、早番、夜勤など複数の勤務シフトにあわせて、説明会を何回かに分けて開催しています。

 

経営難は労働者のせいではない

退職金の不利益変更をなぜ提案してきたかと言うと、彼らの説明によれば、経営難で経営者が変更したことをきっかけにしているのです。

つまり、ここの病院が、ちょっと経営が芳しくないということで、釧路の、もっと大きな医療法人に経営者が変更になり、そちらの病院の基準に退職金のルールを合わせるということになったのです。

自己都合退職でも退職金が満額支給とは、あなたたちのところは高すぎますよ、と新オーナーは思ったのでしょうかね。

でも、確かに経営は厳しいのかもしれないけれども、職員にしてみれば、それって、自分たちのせいではないですよね。

それなのに自分たちが想定していた退職金が減らされる。

とくに 10 年も 20 年も働いている人たちにしてみれば、自己都合を選択すれば、100 万円、200 万円という単位でお金が減らされるわけですから、当然、看護師さんたちを中心に反発が出ます。

そして、説明会で質問をするわけですが、今度は使用者側もだんだん苛立ってきて、「何度言ったら分かるんですか!」みたいな対応になってくる。そうなると、質問なんかできなくなりますよね。

皆さんもリアルに想像してみてください。

それこそ、病院内では偉いとされている人たちが来て説明をしているわけですよ。

そして、「そんなに文句があるならよそへ行けばいいだろ」みたいなオーラを出してきている中で、皆さんなら頑張れますか?

これが組合のない職場での限界なのです。

 

 

第4回はここまでです。いかがでしたか?比較的良心的な職場でも、労働者の権利が侵害されることはありますし、その場合は権利を守るために行動しなければ、どんどん労働者にとって不利な職場になってしまいます。
次回は、その後大野病院の看護師さんが労働組合をつくり、会社とどう闘ったのか?を紹介します。

ひとりで悩まずに、まずはご相談ください。