「尊厳をもって接しないだけで虐待」 サーラ法(通報義務)に学ぶ

「尊厳をもって接しないだけで虐待」 サーラ法(通報義務)に学ぶ

2005年5月25日、札幌福祉総合センターに於いて『スウェーデンにおける障がい者・高齢者の権利擁護に学ぶ集い』 (主催・人権擁護福祉オンブズマン機構)が約200名の参加で開催され、スウェーデンで3つの高齢者施設の総合 施設長を務めるモニカ・バリルンドさんの講演と、ルミエールユニオン多田めぐみさんが内部告発の体験と、 今後の課題について報告しました。

 

モニカさんの講演

1999年、若い介護職員だったサーラが高齢者施設で仕事をしていて、施設の介護に不備がたくさんあることに気付き、 事業者のことを訴えた。

それが発端となってサーラ法ができた。

 

 

以後、サーラ法は介護スタッフに対し、サービス態勢の不備や虐待についての通報義務を定めた。 虐待行為とは、身体的虐待、精神的虐待、性的虐待、経済的虐待、無視する虐待などだが、利用者に尊厳を持って 接しないだけで虐待である。

実際に虐待が無くても「ひょとしたら」と疑いがあるケースでも届け出義務がある。 介護の哲学は「必ず人間を中心として考える」ということだ。

 

多田めぐみさんの報告

私は昨年の夏、自分の職場での虐待の事実を内部告発しました。私にとって4年間働いてきた自分の職場で、 同僚を名指しで告発するということは、大変多くの迷いと葛藤がありました。

始めから虐待の事実を札幌市に告発するなどと、大それた事をするつもりはありませんでした。 上司に報告し、施設長に助けを求めれば、職場は改善されると信じていました。 そもそも私が入社した4年前から暴力があった訳ではありません。今思えば、 発端はどこの施設でもあるようなことでした。

 

当時、職場の風潮は、仕事の早い職員がいわゆる「仕事のできる職員」という感があり、 その仕事の出来る職員は、だんだん職場のリーダー的存在となっていきました。

早い業務は、 ひとつ間違えれば粗雑な介護につながりますが、日々の忙しさから自分たちを振り返ることなく進んできてしまいました。

もちろんその忙しさは、慢性的な人手不足のためもありました。 職員の中で早い時期にそれに気付いた人もいましたが、多数派はその職員の丁寧な介護や言動を疎ましく思い、 あからさまに嫌いました。そして何人もの人がやめて行きました。

 

結果的には昨年春ころから、同僚の数名がお年寄りに対して威圧的な態度をエスカレートさせ始めました。

お年寄りに「早くお茶を飲め!」と頭を小突くことが多くなり、それはすぐにげんこつに変わりました。 単純に考えれば、日々一緒に働き、それを目にしていた大勢の職員はなぜ注意できなかったのか? と疑問を持たれると思います。

見てみぬ振りは虐待に加担しているのと同じではないか?とも思えます。

私もその時まで何年も働いているうちに、お年寄りの人権や介護の仕事の意味を軽く考えてしまっていたと思います。

お年寄りのことよりも、職場の同僚たちとの仲を優先してきてしまい、面と向かって注意をする勇気がありませんでした。

自分の仕事を振り返っても自信が持てず、同僚を偉そうに注意できない。 他の職員も同じだったと思います。

ですから、ルミエールの職場環境の中で、お互いを注意し合あうような習慣が まったくなかったことが、暴力を振るっていた職員を増長させる大きな要因のひとつだったといえます。

暴力を振るった職員も、誰からも注意されないうちに境界線を見失ってしまったのかもしれません。

 

しかし、6月のある夜勤の際、何度も何度もお年寄りの頭をたたく同僚の行為を目の前で見たとき、 その日から3日間私は考えました。

このことをほうっておいては、ルミエールはどうなってしまうのか?

しかし、上司に報告したら職場の人間関係はどうなってしまうのか?

みんなとうまくやっていけなければ、 以前何人もが辞めていったように自分が職場を辞めなければならなくなる。 いろいろな考えがめぐりました。しかし、その行為は粗雑な介護や、おむつ交換の手抜きなどを通り越し、 お年寄りに手を上げるところまできてしまっていたのです。

 

最終的に私は、どんな事情があっても、介護の現場で暴力を正当化してしまってはいけない!たたかれている お年寄りの事だけを焦点に行動しよう!との考えに至りました。

そして、とうとう施設長に助けを求めました。

しかし、施設長に報告しても1ヶ月以上もその職員が事情を聞かれることもなく、配置転換もなく、 お年寄りへの虐待行為は放置されました。

1ヵ月後に職員がやっと事情を聞かれましたが、彼は前面否定をしました。

すると、施設長までも「証拠がない」「やっていないといってる以上は水掛け論」 「あなた意外に見た人がいないので、どっちを信用したらよいかわからない」・・などと言いました。

 

施設長が適切な対処をしてくれなかった為に、職場内は混乱し、私は同僚に「仲間を売った」と非難されました。

人間関係はどんどん悪くなる一方で、私に共感してくれて一緒に頑張ろうと言ってくれたのは、 何十人もいる職員の中でたった一人だけでした。

 

私たち二人は、二ヶ月近くもこの事件を放置する施設では、解決できる可能性はないと考え、 札幌地域労組を介し札幌市に告発する道を選びました。

内部告発をしたことが経営者にわかった当日、 私は施設長に呼ばれ「あなたは施設をつぶす気?」と怒鳴られました。

施設長は根本から事の重大さを理解していないのだ・・・と思いました。

経営者がお年寄りの身の安全を第一に考えていれば、職場内での解決もできたでしょうし、私はそのために施設長に 助けを求めたのです。

そしてこの事件は暴力を振るった一職員の問題ではなく、ルミエール開設当初から経営者が 職員教育を怠り、現場の管理を放棄していた当然の結果であると私は考えます。

 

その後4ヶ月にわたる札幌市の調査を経て、12月に施設に行政処分が下りましたが、同時期に私たちは経営者から 名誉毀損で提訴されました。

札幌市が行政処分を下したにも関らず、施設長は利用者家族には説明も謝罪もせず、 何の責任も果たしてはいません。

内部告発者に裁判で圧力をかけ、責任逃れをしているとしか思えない経営者に反省 の色はまったく見えません。

現場では職員たちが一生懸命札幌市の改善策にしたがって取り組んでいても、 一方では、裁判ででっち上げだ!名誉毀損だ!と続けていては、ルミエールはいつまでたっても世の中から信頼を 取り戻すことなどできないはずです。

この事件が治まらないということは、国や市町村が、虐待を疑って改善命令 まで出しても、実際には、なかなか施設内部の経営にまで口を出せないという、歯がゆい側面をはっきり表しています。

結局は、虐待の有無を裁判闘争で白黒つけなくてはならないというならば、 これ程までに大変な思いをして内部告発をする介護者が今後出るのでしょうか。

 

国は施設内虐待の存在を把握し、その実態を知るには職員の内部告発が重要なひとつの手段と熟知しているはずな のに、今回、お年寄りを即座に守る法律がなく、内部告発者が提訴されるという不利益な扱いを受けても、 それを守る手段がありませんでした。

 

初めに言ったように、この事件はルミエールにとどまらず、どの施設でも起こりうる問題です。

二度と同じことが起こらないように、そして介護者が虐待を目撃したときに躊躇することなく声を上げることの 出来る社会になるように、是非今回の事件が今後のお年寄りの人権擁護に対して、課題のひとつになってほしい と心から願っています。

 

モニカさん「勇気のある行動」とたたえる

(多田さんの報告を聞いてモニカさんは)ルミエールの虐待事件はひどいと思う。しかし職員が内部告発したことは非常に良いことだ。勇気ある行為だ。

自分の同僚の行為を訴えることで、職場でいじめに合うことは良くわかる。 サーラ法ができたのに届け出件数が(予想より)少ないのは、スウェーデンにも同じ背景があると思う。

スウェーデンでは、事業者が内部告発した職員を訴えるなどということは考えられないことで、 コメントのしようもないことだ、と述べた。

 

以上、引き続きルミエール虐待事件のご支援をお願い致します。

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