SGU北海道ALTユニオンは、NON-JET ALTの貧困問題について、待遇改善を求めるため札幌市教育委員会(学校教育部 教職員育成担当)に要請書を提出しました。

要請書を出すまでの経緯はこちらからどうぞ。(【闇深】まるで亡霊あつかい…「NON-JET ALTの悲痛な叫び」)

今回の記事では、実際に札幌市教育委員会に提出した要請書、および現時点での札幌市教育委員会の対応について報告します。

 

札幌市教育委員会に提出した要請書

要 請 書

 

我々札幌地域労組は、北海道内の小中学校で英語のネイティブ発音教育の為に働くNON-JET ALTが多数加入している労働組合です。

また、ALT問題に取り組む全国の労働組合と連帯し、すべてのNON-JET ALTとその家族の権利を守り、労働条件の向上を実現するために活動しております。

ついては、現在札幌市内の小中学校で働くNON-JET ALTが直面している切実で重要な問題に関して、下記の通り質問・要請致しますので、問題解決に向けて当組合と協議および誠意ある回答をお願い致します。協議の日時の設定等のご連絡は本件担当の三苫までお願い致します。

尚、本要請書、および本件に関する札幌市の回答・対応などは、すべてインターネット、SNS、報道機関等に公開することを予め申し添えます。

 

 

1. 札幌市においてのNON-JET ALTの役割と位置づけについて

NON-JET ALTの運用には公的規定が全くなく、各地方自治体の裁量で運用されます。

ついては、今後将来的な見通しとして、NON-JET ALTは札幌市の英語教育にとって「不可欠な」存在なのか、それとも「有益だが不可欠とまでは言えない」存在なのか、あるいは「不要な」存在であり将来的に廃止していくのか、札幌市の見解を求めます。

 

 

2. 低賃金問題、官製ワーキングプアについて

(1)現在、札幌市内で働くNON-JET ALTは、極めて低い賃金で働くことを強いられています。とりわけ、学校の授業が少なくなる3月および4月は労働日が激減し、月収は6万円~8万円ほどになります。

ついては、札幌市として、このような実情を認識されていますでしょうか。

また、認識されているのであれば、教育の現場でこのような不合理な官製ワーキングプアが発生していることについて、是正が必要だと判断されるのか、あるいは是正の必要性はないと判断されるのか見解を求めます。

 

(2)札幌市からALTの派遣を委託された株式会社インタラック北日本は、NON-JET ALTの賃金・社会保険等の処遇について、「すべて札幌市の仕様および予算の通り行っており、当社として裁量を持って労働条件を改善させることは絶対に不可能である」と強調しています。

また、「札幌市が予算を増額してくれるのであれば、NON-JET ALTの労働条件の改善は可能である」とも主張しています。

ついては、ALT派遣業務の予算、委託会社のマージン率、およびNON-JET ALTの賃金等の処遇(仕様)について、どのようなプロセスで誰によって決定されているのか説明されたい。

 

(3)文科省管轄のJET ALTと同じ仕事をしているにも関わらず、NON-JET ALTが著しく低い賃金で労働を強いられていることは、非常に不合理だと言わざるを得ません。

ついては、NON-JET ALTの賃金(仕様)の改善を求めます。

特に3月および4月の賃金が著しく低下する問題については、強力かつ早急に改善を求めます。早急に改善出来ないのであれば、どのような条件が整えば改善されるのか説明されたい。

 

 

3. 社会保険加入について

(1)札幌市の仕様書により、社会保険に加入できるNON-JET ALTは88名中、わずか18名のみである実態があります。

生活の基盤である社会保険に加入させずに働かせることは、NON-JET ALTの生活不安に直結し、教育の質を著しく下げるものであると考えます。

ついては、何故ほとんどのNON-JET ALTが社会保険に加入できないような仕様になっているのか、社会保険加入要件である週30時間の所定労働時間寸前の「29時間50分」という極めて不可解な労働時間が設定されているのか説明されたい。

また、このような仕様により、社会保険に加入できないNON-JET ALTが大量に生み出されてしまうことを札幌市として事前に認識していたのか説明されたい。

 

(2)NON-JET ALTの生活安定と定着化を実現するため、および教育現場で発生している不合理な官製ワーキングプアを改善するために、早急にすべてのNON-JET ALTを社会保険に加入させることを求めます。早急に改善できないのであれば、どのような条件が整えば、改善されるのか説明されたい。

 

 

4. 直接雇用について

(1)今後、札幌市がNON-JET ALTを直接雇用する可能性はあるのか、可能性がないのであれば、何故直接雇用出来ないのか合理的な理由の説明をされたい。並びに、どのような条件が整えば、直接雇用できるのか説明されたい。

尚、当組合としては、すべてのNON-JET ALTを早急に札幌市で直接雇用するよう求めます。

 

(2)他の自治体において、直接雇用されているALTをインタラックがマネジメントを請け負うというケースがあります。

ついては、札幌市がNON-JET ALTを直接雇用しインタラックがマネジメントを請け負うという雇用形態の可能性はあるのか説明されたい。

尚、インタラックは、札幌市においても「技術的に可能である」と主張しています。

 

 

5. 教育の質について

(1)我々現場で働くNON-JET ALTは、教育の質の確保にはNON-JET ALTの生活安定が不可欠であると考えますが、札幌市は、その点についてどのように判断するのか説明されたい。

また、現状の教育の質が十分だと判断するのであれば、その合理的理由・根拠を説明されたい。

 

(2)仮に札幌市として、教育の質が現状十分だと判断されるのであれば、我々現場で働くNON-JET ALTとしては、それは既存のNON-JET ALTが低賃金かつ不安定雇用にも関わらず、現場の努力、および犠牲を支払う事で成立しているものと考えますが、その点の見解を求めます。

 

 

6. NON-JET ALTの労働契約および企画審査時の労働条件に関する配点について

(1)札幌市は、NON-JET ALTの安定雇用および安定配置、労働条件を向上させるために、複数年契約の導入、および入札時に行う企画審査において労働条件も重視していくという施策を講じてきた経緯があります。

しかしながら、現状は、札幌市とインタラック社の契約は複数年契約にも関わらず、NON-JET ALTは全員、次年度の更新がない1年限定の労働契約(いわゆる不更新条項付き労働契約)により極めて不安定な雇用を強いられています。

尚且つ、入札時における企画審査で直接労働条件に反映される部分の配点も微々たるもので、NON-JET ALTの処遇改善に全く影響を与えません。

これにより、低賃金が固定化されるだけでなく、不更新条項付きの1年限定の労働契約が原因で退職が相次ぎ、NON-JET ALT自体が定着しない実態があります。

ついては、このような実情を札幌市は把握しているのか説明されたい。また、把握しているのであれば、改善が必要と判断されるのか、あるいは改善の必要性は無いと判断されるのか説明されたい。

 

(2)NON-JET ALTの安定配置および教育の質の向上実現には、複数年での労働契約が必要不可欠です。

更に、札幌市とインタラックが複数年契約をしても、肝心のNON-JET ALTとインタラックの労働契約が不更新条項付きの1年契約であれば、複数年契約の意味が全くありませし、低賃金労働について会社に不満を言うNON-JET ALTが雇止めや解雇される危険性があります。

ついては、NON-JET ALTの労働契約の改善を求めるとともに、1年限定の労働契約に関しての札幌市の見解を求めます。

以上

 

 

 

誠実とは程遠い札幌市教育委員会の対応

我々は労働組合として、札幌市(環境局、こども未来局等)や国(厚生労働省、文部科学省等)と日常的に協議・意見交換を行っています。

もちろん、その際には札幌市や国は非常に協力的で問題解決に向けて真摯に話し合いを行ってくれます。

しかし、残念ながら札幌市教育委員会は非常に不誠実な対応を繰り返しています。

 

札幌市教育委員会は、我々の要請書は受け取りましたが、問題解決に向けた協議や回答について『今話せることは一切ない!』『いつ回答できるかもわからない!言えない!』と一方的に言い放ち、全く取り付く島もない状況です。

その後も組合が、『この件の担当者や決裁権限を持っている責任者は誰なのか?』と問い合わせても、札幌市教育委員会のU氏は『お答えできない!』『教えられない!』と言って、一方的に電話を切りました。

しかも、複数回に渡ってこのような対応を繰り返しています。

 

その上、3月16日に開催された札幌市議会・予算委員会の答弁で、札幌市教育委員会・紺野宏子教職員担当部長  icon-external-link は、現場のNON-JET ALTとの話し合いを明確に拒否しました。

教育現場で苦しんでいるNON-JET ALTから徹底的に目をそらす教育委員会の姿勢・対応は、皆さんの目にはどのように映っているでしょうか。

 

我々は、誰かの責任を問おうとか、これまでのことを糾弾しようなどとは全く考えていません。

現在存在する問題点を共有し、少しでも改善するための建設的な協議がしたいだけです。

それにもかかわらず、今ある問題にきちんと向き合わずに門前払いをする札幌市教育委員会の対応は、大変言いにくいですが、極めて不誠実だと言わざるを得ません。

 

そして、とても疑問に思っているのが、なぜ札幌市教育委員会はこれほどまでに我々との協議・回答を避けているのでしょうか。

札幌市教育委員会が行っていることに正当性があるのであれば、それを堂々と示せばよいと考えます。

それが出来ない特別な理由があるのでしょうか。あるのであれば、その事も含め誠実に説明をして頂きたい。

 

いずれにしても、常識的に考えて、公教育制度の現場働く労働者に貧困はあってはならないと考えますし、質の良い教育を子ども達に提供するためには、この問題を解決に導かなければならないです。

札幌市教育委員会には行政機関として、公共の利益に目を向けて頂きたい。そして、誠意ある対応を望みます。

 

 

問題を解決できるのは教育委員会なのに責任逃れをしている

札幌市教育委員会は、NON-JET ALTの賃金などの待遇について、『あくまで委託先会社での労働問題で、教育委員会は関係ない』旨の主張をしています。

 

しかしながら、札幌市教育委員会から委託を受けて、各小中学校にNON-JET ALTを派遣している会社(インタラック北日本)は、『札幌市教育委員会の指示通り(仕様書の通り)NON-JET ALTを雇用している。賃金なども札幌市教育委員会の指示(仕様・予算)に従って決定している』と主張しています。

 

つまり、委託先会社の主張を整理すると、社会保険に加入できないNON-JET ALTが存在するのも、年収200万円で雇用されているのも、3月・4月の賃金が6万円~8万円になるのも、すべて札幌市教育委員会が決定しているということです。

それにもかかわらず、札幌市教育委員会が全く関係がないという理論は通らないです。

仮に、百歩譲って委託先会社の問題であったとしても、教育の現場で不合理な低賃金労働(官製ワーキングプア)が起こっていること、そしてその原因が札幌市教育委員会の指示(仕様書)であるのに、全く関知しないというのは、論理的にも倫理的にも大いに問題があるということは誰の目にも明らかです。

 

札幌市教育委員会は、教育に関する事務をつかさどる行政委員会です。教育における地方自治、教育行政の首長からの独立などの原理を体現する機関です。

それ故に、極めて高い倫理観を求められるのは当然の事です。しかしながら、繰り返される札幌市教育委員会の不誠実な対応は、求められる倫理観と完全に真逆のことだと感じます。

非常に問題が山積している現状を放置することが教育委員会の倫理観に沿う事なのでしょうか。

 

このまま問題が解決されなかった場合、NON-JET ALTと札幌市の英語教育はどうなっていくのか?

このまま問題が解決されなければ、NON-JET ALTたちは不合理な低賃金労働を強いられ続けて、食事もままならず、家賃も支払えず、病院にも行けず、家族も持てず、養えず、教育に熱心なNON-JET ALTほど、不遇に耐え切れずに次々辞めていくでしょう。

それだけにとどまらず、今後、優秀な人材ほどALTの仕事をしなくなります。ブラックな仕事、ブラックな企業に人が集まらなくなるのは、当然の市場原理です。

 

それにより、教壇には経験の浅いNON-JET ALTが立つことが常態化され、教育の質は著しく低下するだけでなく、NON-JET ALTを学校に配置する制度自体が危ぶまれることが想定できます。

つまり、NON-JET ALTだけでなく、札幌市の多くの児童・生徒が不利益を被ることになります。

事実、経験豊富で優秀なNON-JET ALTがいなくなれば、授業のレベルが低下するのは火を見るよりも明らかです。

 

また、学校でのNON-JET ALTの存在自体が非常に有益です。存在そのものが学校教育に大きく貢献します。英語教育だけでなく、外国人と交流することで異文化への理解を深めることで視野が広がり、健全な人格形成にも寄与します。

NON-JET ALTの貧困問題が解決されなければ、将来的にこの制度は破綻し、児童・生徒の貴重な機会が失われることも覚悟しなければなりません。

繰り返しになりますが、ブラックな仕事、ブラックな企業、ブラックな国に人が集まらなくなるのは、当然の市場原理なのです。

 

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の教育への公的支出は比較可能な38か国中37位です。

さらに、日本の中でも、札幌市の教育予算は他の自治体に比べてとても低く、その上、NON-JET ALTに対する予算は、全国で最下位クラスです。つまり、札幌市の英語教育予算は世界レベルで低いということになります。

決して軽くはない税負担をしているにもかかわらず、適切な予算が割かれずに質の良い教育が提供されないのは非常に不合理です。

札幌市は、NON-JET ALT事業に十分な予算をつけて、市民に質の良い教育を提供することで税収を適切に還元する必要があるのではないでしょうか。

 

マスコミの取材も進んでいます

この問題の本質は、公教育制度の現場での労働者貧困問題が社会的にどのような影響を及ぼすかを教育委員会が意識していないことだと考えます。

問題を解決させるためには、まず可視化する必要があります。現在、メディア各社がNON-JET ALT貧困問題の取材を進めています。

問題を可視化することで、札幌市教育委員会がこの問題を改めて考えてくれることを望みます。